今回は東大院機械工学専攻平成23年熱力学の大問IIIを解説したいと思います。
ガバガバなところがあったり間違っているかもしれませんが解答の参考にしてください。
なお問題をそのまま載せるのは権利の都合上まずいと思うので載せません。
問題が欲しいという方はコメントするかtoriatama321@gmail.comに連絡してください。
問題を解くのに必要な知識
・フーリエの法則
・熱エネルギーバランス
・混合平均温度
・ステファン・ボルツマンの法則
解答本文
毎度おなじみの熱エネルギーバランスだと思って解くと(2)でブチギレそうになる問題です。初めて解いたときは考えるまでもなく右辺が0になるのが明らかで(3)の流速分布を使えないじゃん!なんだこれ????ってなった記憶があります。そっから考えて無理やり流速分布を使えるような答えを出したので一応その答えを書いておきます。
(1)熱伝導による伝熱量を求める問題
この問題では以降、すべて奥行き方向は単位長さ当たりを考えます。フーリエの法則より伝熱量Qは
(2)熱バランス式を考える問題
下図のようにすき間内に微小な検査体積dxdyを取ります。問題でも粘性係数などはまったく与えられていないので粘性散逸(粘性によって発生する熱量)は無視します。ちなみに粘性散逸は流速が大きい場合に考慮すればいいです(補足に理由あり)。
ここで、検査体積内の左断面および下側の断面から熱量が流入し、右断面および上側の断面から熱量が流出するとします。流入分と流出分をすべて挙げると
・左断面からの流入分
x方向の熱伝導によって流入する熱量Qx
流体のx方向の流れによって流入する内部エネルギーUx
・下側断面からの流入分
y方向の熱伝導によって流入する熱量Qy
流体のy方向の流れによって流入する内部エネルギーUy
・右断面からの流出分
x方向の熱伝導によって流出する熱量Qx+dx
流体のx方向の流れによって流出する内部エネルギーUx+dx
・上側断面からの流出分
y方向の熱伝導によって流出する熱量Qy+dy
流体のy方向の流れによって流出する内部エネルギーUy+dy
左断面における空気の流速のx方向成分をu、y方向成分をv、温度をTとすると、dxおよびdyが微小なのでこれらは
となります。以上より検査体積の熱バランス式は
(検査体積から流出するエネルギー)=(検査体積に流入するエネルギー)
に式(1)~式(8)を代入して微小長さについて3次以上の項を無視すれば
となります。ここでさらに連続の式
より式(9)は
となります。
(3)温度場および速度場が発達した場合の熱バランス式を考える問題
速度分布から完全に発達した層流になっているとわかるので
となります。これよりy方向の流れによって運ばれる熱量は考慮する必要がなくなります。また、境界層暑さをδとすると式(11)の項のオーダーは
となります。ここで
なので
が成立します。これより
と近似することができるのでx方向の熱伝導は考える必要がなくなります。以上の結論と
に注意して熱バランス式を考えていきます。検査体積は(2)と同じdxdyで考えていきましょう。
流入するエネルギーおよび流出するエネルギーをすべて挙げると
・流入分
y方向の熱伝導によって流入する熱量Qy
流体のx方向の流れによって流入する内部エネルギーUx
・流出分
y方向の熱伝導によって流出する熱量Qy+dy
流体のx方向の流れによって流出する内部エネルギーUx+dx
となります。これらはそれぞれ
となります。ただし、Tmは断面における混合平均温度でありその定義は断面における平均流速をumとすると
です。これは管路断面について流体を完全に混合したときの平均温度に相当します。以上より熱バランス式は与えられた流速分布を用いて
と表せます。式(17)の両辺を積分定数をC1、C2として積分していくと
となります。ここでy=-d/2のときT=T0より
また、y=d/2のときT=T1より
が成立します。式(20)+式(21)より
なのでC2は
式(21)-式(20)より
なのでC1は
よってTは式(19)より
これと
を式(16)に代入すると
ここで
なのでこれらより式(27)は
これをxで微分して
dTm/dxが求められたので後は伝熱量Qを求めていきます。式(18)より
なので
すき間のうち長さdxの部分での基板への伝熱量qxは-y方向への伝熱を正とすると
と表せます。総伝熱量Qはこれをすき間の全長にわたって積分すればいいので
となります。ここで、Q1を問い(1)における伝熱量とするとQは
と表せます。すき間入り口での混合平均温度を適当にT2(T0<T2<T1)とすると式(24)においてx=0のときTm=T2よりC3は
なのでQはこれを使って書き直すと
となります。あとは伝熱量を比較していきます。
なのでT2が
のとき
となって伝熱量は熱伝導の場合より大きくなります。次にT2が
のとき
となって伝熱量は熱伝導の場合より小さくなります。
(4)放射伝熱による伝熱量を求める問題
ステファン・ボルツマンの法則より放射による伝熱量Qは
(5)放射伝熱による伝熱量を減少させる方法を考える問題
放射による伝熱量を減少させるには射出率を下げる反射塗料とかを表面に塗布するなどして基板と発熱体を黒体じゃなくすればいいと思います。射出率とかについては↓の記事を参考にしてください。
(補足)粘性散逸が無視できる理由
本問でなぜ粘性散逸が無視できるのかを示しておきます。まず、粘性を考慮した場合のエネルギー収支を考えましょう。ただし、簡単のため粘性はx方法のみ考慮することにします。
まず、粘性力による仕事をW’としてこれがどう表せるのか考えます。検査体積dxdyの上面の下面に対する相対的な移動距離をlとすると、dyが微小なので
となります。粘性力による仕事W'はこれと粘性力
の積となるので
と求まります。これが粘性による発生する熱量となります。
後は(2)と同様にすると検査体積から流入、流出する熱量はそれぞれ
となります。検査体積の熱バランス式は
(検査体積に流入するエネルギー)=(検査体積から流出するエネルギー)
から
となるので上で求めたものをすべて代入すると
となります。これは連続の式
より
次に境界層厚さをδとすると右辺の粘性による項以外のオーダーは
となります。ここで
なので
が成立します。これより
と近似することができるので、
とできます。ここからようやく粘性散逸による項を評価していきます。右辺の項のオーダーはそれぞれ
なのでこの2つの項の比は
のオーダーになります。ここで
なので2つの項の比は結局、
のオーダーであるとわかります。これより粘性力による散逸の影響は流れが速く、温度が低いほど大きくなることがわかります。また、このオーダー評価の結果、
となれば粘性力による散逸を無視しても良いとわかりますね。本問ではこれをみたしているので最初から無視しているわけです。
最後に具体的な数値を代入して本問では本当に粘性力による散逸を無視していいのかを確かめておきましょう。流速uを100[m/s]、温度Tを25[℃]、圧力を大気圧とすると、このときの空気の比熱cpは1005[J/kg・K]、Pr=0.7なのでこれらを代入すると
となって確かに
をみたしています。これより
としても良いことがわかりますね。流速が100[m/s]の場合でもこれなのでかなり流速が大きい場合でないと粘性散逸は考慮しなくて良いとわかります。
以上で今回の記事はおしまいです。正直(2)から自信は全くありませんがこんなんでも誰かの参考になるかなと思って一応記事として残しておきます。最後まで読んでくれてありがとうございました。
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