今回は東大院機械工学専攻平成26年熱力学の大問IIを解説したいと思います。
ガバガバなところがあったり間違っているかもしれませんが解答の参考にしてください。
なお問題をそのまま載せるのは権利の都合上まずいと思うので載せません。
問題が欲しいという方はコメントするかtoriatama321@gmail.comに連絡してください。
問題を解くのに必要な知識
・ニュートンの冷却法則
・熱エネルギーバランス
・速度境界層
・温度境界層
・フーリエの法則
・プラントル数
解答本文
(1)まではいつもの熱エネルギーバランスなのでここまでは確実にできるようにしましょう。(2)からは正直言ってあまり自信がありませんが、考えたことを書いておきます。参考にしてください。
(1)-1 熱エネルギーバランスを考える問題
下図のように流路内に検査体積dxを考えます。
左の断面から検査体積内に流入する内部エネルギーUxは
右の断面から流出する内部エネルギーUx+dxは
ここで、熱伝達によって壁面から検査体積に流入する熱量Q1は
となります。検査体積内の熱エネルギーバランスを考えると
(検査体積に流入する熱量)=(検査体積から流出する熱量)
が成立します。よって熱バランス式は
となります。これに式(I)~(III)を代入して整理すれば
となって式(1)が得られます。
(1)-2 平均温度の分布を求める問題
qはニュートンの冷却法則より
なのでこれを式(1)に代入して整理すると
入り口の水の温度がT0なのでx=0のときTm=T0なのでC1は
よりTmは
これを図示すると下図のようになります。
ここでTw-Tmは
なので位置x1は
となります。
(1)-3 総伝熱量を求める問題
総伝熱量Qは
ここで流路出口での温度がTwと等しいとき式(VI)より
が成立するのでQは
となります。これに
を代入すればQは
(別解)
下図のように流路全体について熱エネルギーのバランスを考えます。
流路入口から流路に流入する内部エネルギーをUx=0とすると
流路出口から流出する内部エネルギーをUx=Lとすると
流路全体での熱バランスを考えると総伝熱量Qは
と求まります。これに
を代入すればQは
(2)-1 伝熱量Qが極大値をとる理由を考える問題
QがLに対して極大値を取るということは、Lが大きくなるとQが増加する要素とQが減少する要素が存在することになります。それぞれの要素について考えていきましょう。
(i)Lが大きくなるとQが増加する要素
当たり前ですがLが大きくなると伝熱面積は増加します。この効果によってLが大きくなるとQも増加すると考えられます。
(ii)Lが大きくなるとQが減少する要素
温度場が未発達の場合、下図のように壁面付近に温度境界層が形成されます。
温度境界層から離れた流体部分の一様な温度(バルク温度や主流温度といいます)をT∞とするとニュートンの冷却法則から壁面からの伝熱量q'は
ここで温度境界層の厚さをδTとして、温度境界線内の温度分布が直線的に変化していると近似するとフーリエの法則から壁面における熱伝導率をλとするとq'は
式(VII)および式(VIII)から熱伝達率hは
となって、温度境界層が厚いほど熱伝達率hは小さくなることがわかります。つまり、壁面からの熱伝達量が低下するということは温度境界層が厚くなるということです。ここでは温度境界層内の温度分布を直線と近似しましたが、直線分布じゃなくても熱伝達は温度境界層が厚いほど小さくなります。重要なのは温度境界層が厚いと温度勾配が小さくなって伝熱量が減るということです。
温度場が未発達の場合はこの影響を考える必要があります。また、温度場が未発達の場合、温度境界層の厚さδTはxの値によって変化するので熱伝達率もxの関数となっていることに注意してください。
温度場が発達した場合は熱伝達率は位置によらず一定となります。詳しくは下の記事を参照してください。
さて、温度境界層の厚さと熱伝達率の関係を示したところでここからはLが大きくなったら温度境界層はどうなるのかを考えていきましょう。
本問では入口と出口の圧力差ΔPは固定なので、Lが大きくなると流体を駆動する圧力勾配ΔP/Lは低下します。これによって流量は低下します。この時、下図のように検査体積をとって、問い(1)-1と同様に熱エネルギーバランスを考えると、流れによって検査体積を出入りする内部エネルギーが減少するため、壁面からの熱伝達量も低下することがわかります。
先ほど示したように壁面からの熱伝達量が低下するということは壁面における温度勾配が小さい、つまり温度境界層が厚いことを表しています。つまり、Lが大きくなると流量が低下し、温度境界層がより厚く形成されてしまうというわけです。この影響で熱伝達率は低下するので、その分任意の位置における伝熱量はLが小さい場合に比べて低下します。また、下流にいくほど温度境界層は発達して厚くなるので熱伝達量は小さくなりますね。
以上をまとめると
Lが大きくなると伝熱面積の増加によりQは増加するが、同時に圧力勾配の低下による流量の減少から、温度境界層がより厚く形成されてしまうため、この効果により熱伝達量は減少する。この二つの効果によって①と②の間でQが極大値をとるようなLが存在することになる。
的な感じでしょうか。
合っているかは正直知りません。他にも乱流がどうとかごちゃごちゃ考えましたが、最終的にこの答えにしました。もっとそれっぽい答えがあるよという方はぜひ教えてください。個人的にQが増加する要因の方、断熱面積が増えるってだけでいいのかなあ…とは少し思ったり思わなかったりしてます。
(2)-2 熱拡散率が大きい場合を考える問題
熱拡散率が水より大きいのでプラントル数
は水より小さくなります。ここで速度境界層の厚さをδとすると
の関係が成立します。ただしnはn>0をみたします。これよりこの流体では温度境界層の方が速度境界層よりも厚いことがわかります。この式で分かるのはあくまで境界層どうしの比なので速度境界層についても考えると、密度、粘性係数が同じなことから速度境界層はそのままの厚さになります。(レイノルズ数が水の場合と変わらないためです)
つまり、水と比較すると速度境界層はそのままに温度境界層だけが厚くなった状態であると考えられます。温度境界層が水よりも厚いので、①では伝熱量は下がります。
また、水の場合よりも温度境界層の厚さが大きいため、伝熱量は水の場合よりも低下し曲線は全体的に下にシフトすると考えられます。よって①、②において伝熱量は低下すると考えられます。
(補足)プラントル数について
プラントル数と境界層厚さの関係を表す式(IX)は以下のH21の流体でも出ているので覚えておきましょう。
さて、一応補足としてここではプラントル数について軽く書いておきます。
プラントル数は流体中の運動量と熱の拡散の度合いの比を表し、速度境界層および温度境界層の発達に関係する無次元数であり、プラントル数と温度境界層の厚さ、速度境界層の厚さの関係は下の図のようになります。ただし、赤線が温度境界層、青線が速度境界層となっています。
今回はプラントル数を取り上げましたが、これに限らず無次元数が大体何を表すかくらいは覚えておいた方がいいです。H21は流体力学なのに伝熱が融合しているというイレギュラーでしたが、この他にも無次元数についての問題を出している年もありますし、有名なものは押さえておきましょう。
最後に一応伝熱の勉強法とかについての過去記事も貼っておきます。記事の貼り付けが多くなってしまって申し訳ないですが、せっかく時間かけて書いた記事なので見せびらかしたいだけです。お許しください。
長々と書きましたが以上で解説は終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございました。
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