今回は東大院機械工学専攻平成29年熱力学の大問IIを解説したいと思います。
ガバガバなところがあったり間違っているかもしれませんが解答の参考にしてください。
なお問題をそのまま載せるのは権利の都合上まずいと思うので載せません。
問題が欲しいという方はコメントするかtoriatama321@gmail.comに連絡してください。
問題を解くのに必要な知識
・熱抵抗
・熱エネルギーバランス
・フーリエの法則
・ニュートンの冷却法則
・無次元数(ヌセルト数)
解答本文
またもや熱エネルギーのバランスを考える問題が出てます。。
(2)くらいまでは比較的解きやすいかなと思いますが、(3)の結果を利用して~あたりでん?なんだこれとなる人はそれなりにいそう。
(4)からはそれなりに難しいしできなくてもいいように思います。合格狙うなら(3)までは落とさないように演習をしていきましょう。
しれっと熱抵抗が当たり前のように出てきているので一応下の記事も読んどくといいかもしれません。
(1)熱抵抗を求める問題
熱抵抗を知らないとなんだこれ?ってびっくりしそうですが内容はただの基本的な伝熱の問題です。冷静に解いていきましょう。
まず、高温空気と冷却管表面の間の熱伝達による伝熱量dQは冷却管内側の面積と外側の表面積を等しいとみなしてよいという仮定とニュートンの冷却法則より
となります。これよりこの伝熱における熱抵抗dRaは
次に、冷却管内での熱伝導について考えます。この問題ではtが十分に薄く、冷却管内の温度分布は直線となるので冷却管内の温度勾配mは
となるのでこの伝熱における熱抵抗dRCは
最後に冷却管表面と冷却水の間の熱伝達について考えます。冷却管表面と冷却水の間の熱伝達による伝熱量dQはニュートンの冷却法則より
となるのでこの伝熱における熱抵抗dRwは
となります。
全体の熱抵抗dRは抵抗が直列に接続されていることから単純にこれら3つの熱抵抗を足し合わせればよいので
となります。
(参考)
一応丁寧に全体の熱抵抗dRを導出しておきます。式(1)、(4)、(6)をそれぞれ変形すると
となります。この3式を足し合わせれば
なので、これから全体の熱抵抗dRは
と求まります。
(2)熱エネルギーバランスを考える問題
冷却管内の任意の断面を通過する質量流量をm1とするとこれは
となります。この流量によって上流側の断面から検査体積にエネルギーが持ち込まれるので、上流側の断面から検査体積内に単位時間当たりに持ち込まれる内部エネルギーをqxとするとqxは
となります。同様にして下流側の断面から単位時間あたりに検査体積から流出する内部エネルギーをqx+dxとするとこれは
上下断面から出入りする内部エネルギーが求まったので、検査体積内の熱バランスを考えていきましょう。
上図のように検査体積内には上流側から冷却水の流れによって内部エネルギーqxが、冷却管の壁面から熱伝達によってdQが単位時間当たりに流入しています。次に、検査体積から流出する熱量は下流側の断面から冷却水の流れによって流出する内部エネルギーqx+dxのみです。これらがバランスし、
(検査体積から流出する熱量)=(検査体積に流入する熱量)
が成立します。よって熱バランス式は
となります。これに式(6)、(15)、(16)を代入して整理すれば熱バランス式は
(3)総伝熱量を求める問題
(2)で求めた熱バランス式を積分してTm(x)を求めると
となります。ただし、ここでC1を積分定数としました。ここでTm(0)=T0なのでC1は
と求まります。これを式(19)に代入すればTm(x)は
となります。これをもとにT1を求めましょう。T1はTm(L)に等しいので
次に総伝熱量Qを求めます。T1の結果を利用して求めよとのことなので(2)の検査体積を下図のように冷却管内部の全体に拡張します。
このとき上流側の断面から検査体積内に単位時間当たりに持ち込まれる内部エネルギーをqx=0とすると(2)と同様にして
となります。同様にして下流側の断面から単位時間あたりに検査体積から流出する内部エネルギーqx=Lは
この検査体積内の熱バランスを考えればQは
これに式(22)の結果を代入すればQは
と求まります。
(別解)
別にT1の結果を用いて求めろとかの指示がなければ普通に式(6)を積分して求めてもいいです。式(6)に式(21)を代入すれば
これを冷却管の全長にわたって積分すればQは
となって式(26)と同じ結果が得られます。
(4)どの熱抵抗が支配的かを考える問題
高温空気の熱伝導率をλa 、冷却水の熱伝導率をλwとするとヌセルト数の定義より
となります。これよりこのときの高温空気と冷却水の熱伝達率はそれぞれ
これを基に熱抵抗の大きさを比較していきます。式(2)、(5)、(7)を見ると1/πDdxの部分はどの熱抵抗にも共通しているのでここは無視してそれぞれの抵抗の大きさを数値を代入して計算するとそれぞれ
となるので、この状況の時この中で支配的となるのはもっとも熱抵抗が大きい冷却管外側の熱抵抗dRaとなります。
次にU0、U∞によって総伝熱量Qがどのように変化するかを考えます。
冷却水の熱伝達率hwはU0の0.8乗に比例するのでU0が大きくなればなるほど大きくなり、このときdRwは式(7)より小さくなるので総伝熱量Qは増加します。
高温空気の熱伝達率haはU∞の0.6乗に比例するのでU∞が大きくなればなるほど大きくなり、このときdRaは式(2)より小さくなるので総伝熱量Qは増加します。
以上よりU0およびU∞が大きくなれば総伝熱量Qは増加します。
参考:ビオ数とヌセルト数について
一応言っておきますがビオ数とヌセルト数はどちらも熱伝達率、代表長さ、熱伝導率を使うので混同しがちですがビオ数は熱伝導率は個体のものを用いるのに対し、ヌセルト数は熱伝達率、熱伝導率どちらも流体のものを使います。ヌセルト数の物理的な意味は流体が静止したとき熱伝導により移動する熱量に対する流動している流体で熱伝達により移動する熱量の比です。無次元数は定義式だけでなく物理的意味もセットで覚えると混乱しないで済むのでできるだけ意味も含めて覚えておきましょう。ビオ数については下の記事に出てくるのでチェックしておいてください。
(5)熱抵抗を簡略化して総伝熱量Qを表す問題
(4)のU0=1 m/s、U∞=10 m/sのときの各熱抵抗の値を見てみると冷却管内部の熱抵抗dRCが断トツで小さいことがわかります。(4)よりdRaはU∞の-0.6乗の関数、dRwはU0の-0.8乗の関数なので流速が極端に大きくならない限りこの2つの熱抵抗に比べてdRCは遥かに小さいのでこれは無視することができます。式(5)を変形すると
となるのでdRCを無視、つまりdRC=0としたときdQが有限値になるためにはTa-Tw=0となる必要があります。つまり冷却管の外側と内側の表面で温度が等しくなります。この状況での総伝熱量Qを考えていきましょう。式(1)よりQは
となるのでこれよりTa(=Tw)は
となります。これを式(26)に代入してQについて解けば
おまけ:(5)の妥当性を軽く検証しておく
(5)でdRCを無視して総伝熱量Qを計算しましたが無視しない場合と比較してどれだけ総伝熱量Qの値に差が出るのかを確認し、この近似がどれだけ妥当かを記事の最後に検証しておきます。
まず、dRCを無視しない場合の総伝熱量Qを求めます。(5)と同様にすればTaは
となります。次に式(4)より
なのでこれよりTwは
これに式(39)を代入すれば
これを式(26)に代入してQについて解けば熱抵抗を簡略化していない場合の総伝熱量Qは
となります。今回はこれをQ1とします。熱抵抗dRCを省略したときの総伝熱量は(5)より
となります。これをQ2とします。(4)よりヌセルト数はそれぞれC2とC3を比例定数とすれば
U∞=10 m/sのときNua=60、U0=1 m/sのときNuw=140なので比例定数はそれぞれ
なので熱伝達率はそれぞれ
となります。これらを式(38)と式(43)に代入すればQ1とQ2をU0、U∞の関数で表せます。これらをエクセルで計算してQ1とQ2を比較してみます。
まずはU∞を1 m/sで固定してU0を動かしてみます。
これを見ると伝熱量のオーダーは10^1程度なのに対して両者の差は最も大きくても0.00963 W程度しかなく非常に妥当な近似であるとわかります。
次にU0を1 m/sで固定してU∞を動かしてみます。
これを見ると伝熱量のオーダーは10^2~10^3程度なのに対して両者の差は最も大きくても2 W程度しかなく非常に妥当な近似であるとわかります。ちなみにU∞を動かした方がU0を動かす場合よりも伝熱量の増加が大きいことがわかりますがこれは(4)で示した通り冷却管外側の熱抵抗が支配的であるからですね。
最後にU0とU∞を同時に100 m/sまで動かしてみます。
これを見ると伝熱量のオーダーは10^2~10^3程度なのに対して両者の差は最も大きくても2.5 W程度しかなく非常に妥当な近似であるとわかります。
以上から結構良い精度の近似だとわかります。ちなみにこれらよりU0およびU∞が増加したら総伝熱量Qが増加するという(4)の結論も正しいとわかりますね。
めちゃくちゃ長くなってしまいましたが以上で今回の記事は終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございました。
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