今回は東大院機械工学専攻平成29年熱力学の大問Iを解説したいと思います。
ガバガバなところがあったり間違っているかもしれませんが解答の参考にしてください。
なお問題をそのまま載せるのは権利の都合上まずいと思うので載せません。
問題が欲しいという方はコメントするかtoriatama321@gmail.comに連絡してください。
問題を解くのに必要な知識
・サイクル
・断熱過程
・等温過程
・分子運動の自由度と比熱比の関係
・オットーサイクル
解答本文
熱力学に関する小問集合といった感じですが、(4)では統計力学が出題されています。一応解答は載せておきますが、この分野はあんまり出なくて対策のコスパが悪いのでスルーでもいいと思います。僕も一切対策しませんでした。おそらく皆そうだと思うので出たら潔く捨てるのをおすすめします。
(1)理論上ありえないサイクルを選択する問題
冷静に考えれば余裕で解ける問題です。一つずつ丁寧に検討していきましょう。
まず、熱力学第2法則からサイクル1周において吸熱する過程と放熱する過程が必要です。このことを念頭においてサイクルを見ていくと(c)は等圧過程で、(d)は等温過程で吸熱は行っていますが、放熱していないのでこれらはありえません。これはT-s線図を描いてみるとわかりやすいです。
断熱過程は熱のやり取りがないため、T-s線図ではs軸に垂直な直線になります。なので断熱過程が2つある時点で他の一つのプロセスだけでは上の図のように閉じることができず、サイクルが成立しないというわけですね。まあ、そもそも同じ点を通っているのに断熱過程の曲線の勾配が異なっているのもどうなんだという感じですが。
次に(a)のサイクルもありえません。なぜならP-v線図において等温過程の曲線の傾き>断熱過程の曲線の傾きとなっているからです。この場合、理論的には断熱過程の曲線の傾き>等温過程の曲線の傾きとならなければなりません。断熱過程では温度変化が起こるため下図のように異なる等温線を通る曲線となるからです。このため必然的にグラフの傾きは等温過程のものよりも大きくなります。
最後に(b)ですが、ちゃんと断熱過程の曲線の傾き>等温過程の曲線の傾きとなっていますし、等温過程で放熱、等積過程で吸熱も行っているので理論的に特に問題ありませんね。
以上より理論的にありえないものは(a)、(c)、(d)の3つとわかります。
(2)混合ガスの等エントロピー過程における関係式を証明する問題
等エントロピー過程なので熱力学第1法則より
が成立します。ここで
なので
となります。次に理想気体の状態方程式より
両辺を微分して
なのでdTは
よって式(Ⅰ)は
これを変形して
これは理想気体におけるマイヤーの関係式
を用いれば
と変形できますね。さらにここで
から
となります。この両辺を積分すると
となって等エントロピー過程における関係式が示せました。
次に混合ガスの比熱比を求めていきます。ここでは分子運動の自由度νと比熱比κの関係
を用います。下のH19年の熱力学の記事でも書きましたが、これちょくちょく使うので覚えてください。
さて、さっそくこの関係式を使ってそれぞれの比熱比を求めていきましょう。ヘリウムは単原子分子なので分子運動の自由度は3です。なので比熱比は
次にO2は2原子分子なので分子運動の自由度は5です。なので比熱比は
となります。ここで
であることに注意して混合ガスの定積比熱を求めると
となります。これと式(Ⅱ)の関係式から定圧比熱は
以上より混合ガスの比熱比は
と求まります。
(3)オットーサイクルの熱効率について考える問題
オットーサイクルの熱効率を求める問題です。東大院ではこの年度の他にH19、H26、H30とよく出ていますね。おそらくですが、断熱過程があるので断熱過程の関係式の証明とか、熱効率の式が単純なうえに比熱比が含まれているので分子運動の自由度と比熱比の関係を使う問題を簡単に作れるのが大きそう。問題が作りやすいんでしょうね。
前置きは置いといて、さっそく解いていきます。
まず、オットーサイクルのP-v線図およびT-s線図は下図のようになります。
熱のやりとりがあるのは状態2から3のプロセスと状態4から1のプロセスです。
以下では状態iのときの物理量に添え字iをつけることにすると、状態2から3のプロセスにおける吸熱量q23は定積過程なので
状態4から1のプロセスは定積過程なので放熱量q41は
となります。次に状態1から2のプロセスは断熱過程なので
が成立し、T2は
状態3から4のプロセスのプロセスも断熱過程なので同様に
が成立するのでT4は
これらから式(Ⅳ)および式(Ⅴ)はそれぞれ
とできます。これよりオットーサイクルの熱効率ηは
と求まります。
(4)電磁波のエネルギーを求める問題(統計力学)
本問は統計力学の問題ですね。あんまり対策している人がいないのでほとんどの人が出たら捨てるであろう問題です。なので正直解答を書くか迷いましたが一応載せておきます。
エネルギーの平均値Eは
となります。次に電磁波のエネルギーDν~ν+dνはエネルギーの平均値Eに振動数νとν+dνの間にある固有振動の数Nν~ν+dνをかければいいだけなので
と求まります。次に
の式から両辺を微分すればdνは
となります。ここでは絶対値をとっているので-はつきません。これよりDλ~λ+dλは
となります。
(参考①)Eを求める際に用いた式
この問題でエネルギーの平均値Eを計算する際の途中式で用いた公式を一応書いておきます。まず分母の計算では
を用いました。これについては解説不要ですよね。初項1、公比が
の無限等比級数なのでこうなるというだけです。分子の
については人によっては混乱するかもなので一応計算過程を書いておきます。まずこれをSとおくと
この両辺に
をかけて
式(1)から式(2)を引くと
ここでかっこ内は初項、公比ともに
の無限等比級数なので
よってSは
と求まります。
(参考②)ステファン・ボルツマンの法則の導出
(4)で求めたエネルギーを積分すれば伝熱でおなじみのステファン・ボルツマンの法則を導出できます。最後に参考程度にその過程を軽く書いておきます。電磁波の全エネルギーEallは
で求められます。ここで
とおくとdνは
なのでEallは
と書き換えられます。ここで定積分は
となる(この計算過程についてはそのうち気が向いたら書くかもしれません)のでEallは
ここで
とおけば
となってステファン・ボルツマンの法則が導けます。
以上で解説は終わりです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
人気ブログランキング |
にほんブログ村 |